港町石巻で医療をやるという事

2025/05/01

石巻は、無論港町です。石巻港(行政上は仙台港石巻地区)を中心として街の経済が成り立っています。ですから、当院には他ではやらないような医者の仕事があり、また他の土地で医療をするのとは違う問題があります。


たとえば、船員の健康診断。国内航路だけの船員なら日本語で書けばよいのですが、国際航路に従事する人には、英語で書かなくてはなりません。決まり文句は二つです。


Fit for sea duties.
Fit for look-out duties.


上は船舶業務可能という意味であり、下は見張り業務可能です。レントゲン、心電図、医師の診断も全て英語で書かなくてはなりません。日本語なら「異常無し」と書きますが、英語はストレートですからNormal、正常と書きます。このあたりは、英語と日本語のニュアンスの差を感じます。


まあそれは良いのですが、しばしば問題になるのが高血圧、糖尿病、高脂血症のような「町医者なら誰でも診る慢性疾患」です。普通そういう患者は主治医がなんとなく決まっていて、変わりなければ2ヶ月に一度主治医を受診します。しかし遠洋航路の船員はそうは行きません。何しろ一度船に乗れば、次に下船するのは少なくとも三ヶ月後。しかも何所に下船するかは決まっていません。石巻から出港したとしても、次に停泊する場所は全く別なのです。


こうなると、誰が主治医なのか分かりません。何所の医者も困り果て、ちょっと血圧コントロールがマズいな、糖尿病がマズいなと思っても、次にその患者をfollowすることが出来ないので、どうしても「前医の処方どおり」になってしまいます。かくしてHbA1cが8を超えている船員さんや血圧が160を超えている船員さんは少なくありません。と言うという当院も、そう患者を診て、マズいなあ、処方変更しないと、と思っても、御本人に訊くと「翌週出港して、次にどこかに停泊するのは3,4ヶ月後で、ものすごく遠方の私は全く知らない街に停泊します」というわけです。それでは処方を変更したその後を追いかけることが出来ません。その人が次にひょっこり当院に来るのは1年後、2年後だったりするわけです。
薬を変更した後を確認できないのに処方を変えて、洋上で何か起きたらどうにもなりません。


こういう人々の健康管理は、非常に大きな問題を抱えているのです。港町石巻ならではの健康問題です。
 

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