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  • 投稿日時:2024/01/30

    小さい頃からDVを受け続け18歳になり、あと2か月ちょっとで家を出られるという人が、「もう少しだ」と思ったのがきっかけなのか、メンタルを崩してしまった。何年も何年も耐えに耐えてきたのだが、ゴールが見えたところでふっと気が抜けてしまったのかもしれない。その人に、問わず語りにこんなことを語った。

    私の親の話をしたことがあったっけ?そうか、してないね。実は俺の両親ってのは、俺が12の時別居した。親父が二度目の浮気をして、家を出ていったんだ。船橋に家があったが、親父はその浮気相手と一緒に自分の実家がある静岡に移った。


    お袋は無論激怒したよ。あの父親はお前達を捨てた悪い奴だと、散々聞かされた。うん、まあ確かにあの親父は、父親として褒められた人間じゃ無かったな。

    あ、こんな話してもよかったのかな?君の具合が悪くて受診しているのに、俺の話して変だよね。

    患者さんが聞こうとする様子が窺えたので、話を続けた。

    まあそう言うわけで親父は俺が小学校卒業直前に家を出ていったんだけど、そうだねえ、中学校の時は一度も会わなかった。高校でね、僕はオーケストラ部に入ったんだよ。その三年生の卒業演奏会の時、親父が聴きに来たそうだ。直接会ってはいない。後で人から聞いた、うん。

    それから俺は一浪したんだね。一浪して東北大に受かった。そうしたら親父が「用事があるから東京に来い」というわけ。今は無くなっちゃったんだけど、赤坂プリンスホテルってのがあった。そこに呼ばれてね。

    部屋に入ったら親父がいて、テーブルにボンと100万円の札束を出したんだ。お前、これが欲しいか、って。大学の入学金、入学の時に払う学費、船橋から仙台に引っ越す費用からアパートの敷金礼金とかってやると、だいたい100万だ。そりゃ、欲しいと言った。そうしたら親父が紙を出してきて、「欲しいならこれにサインしろ」。

    長男として両親の離婚に同意するという文書だった。親父は弁護士だったから、そういうのは詳しかったわけだ。長男が文書で明白に離婚に同意していれば、離婚調停は圧倒的に有利だ。

    まあ、ねえ。こいつは、自分の息子の心を金で買うのかと思ったよ。そりゃ12の時家を出ていった親父で、私が大学に入ったんだから、そろそろ正式離婚の潮時ではあった。そんなことはこっちだって分かっていたさ。だけど100万の札束と見返りっていうのは、ねえ。

    悔しかったけど、その100万が無ければ大学入れないんだから、黙ってサインした。100万円を鞄に入れて、赤坂から船橋に帰ったよ。夜中だったな。自分は心を100万で親父に売ったんだという屈辱感は、ずっと拭えなかった。

    それで、話はだいぶワープして、俺がまあまあ普通の医者になった頃、親父が電話を寄越した。なんでも面倒な医療裁判で、保険会社が相手だから相談に乗れって訳。なんなんだこいつと思わないでは無かったが、その頃になってみると親父が一方的に悪かったんじゃ無い、お袋も相当責任があったんだというのが分かっていたので、そこそこ話に応じた。医学鑑定とか言うのを書いて、15万ぐらい貰った。その裁判は保険会社を相手取ったので、別にどこかの医者を追い詰める話じゃ無かったし、結局裁判では親父の弁護が通って保険会社が金を出したそうだから、15万は安いものだった。

    またワープする。あるとき、親父の奥さんから電話が来た。つまり親父が二度目に浮気した人だ。浮気ではあるが、それっきり親父はその人と所帯を持ったわけだ。なんですか?と思ったら、親父が呆けたんだそうだ。脳卒中で入院し、命を取り留めたはよいが、すっかり言うことがおかしい。その後何回か親父の様子を見に静岡に行ったよ。最初は脳卒中だったが、アルツハイマーも合併したんだね。医学的にはAD with CVD、混合型認知症だ。俺が静岡に行ったら、もう俺が誰かも分からなかった。デイサービスの職員だと思ったようだ。

    そりゃ俺は老年科医なんだから、こういう手合いは慣れてる。上手く話を合わせてデイサービスの職員になった。途中で親父の話が変わるから、病院の医者に早変わりしたり、ケアマネになってみたり、臨機応変だ。でもどうもその時の親父には、遠い仙台の地に長男が医者で暮らしているというのは思いつかなかったらしい。

    親父が死ぬまで何回か仙台から静岡に通った。何回か誤嚥性肺炎を起こしたあげく、やっと死んでくれたんだ。死ぬとき老人病院に入院していて、呼吸が止まったのになかなか心拍が止まらない。心電図モニターがフラットになってやっと止まったなーと思うとピクッと動く。40分ぐらい我慢していたけど、「もうよい」と言い放って心拍モニターを外させた。主治医呼んでくれ、と看護婦に命じて主治医に「呼吸は1時間前から停止しています、心拍モニター付けてると20分に一回ぐらい心拍が出るんですがもう結構です。死亡確認してください」とほとんど有無を言わさぬ語調で言って、死亡確認させた。それで親父が死んだわけだが、さすがに親父が死んだことはお袋に伝えるべきだろうと思ってお袋に電話した。そしたら電話口の向こうで「そうかい、お前を散々苦しめた男だけどね」と言いやがったからぶち切れた。

    ふざけるんじゃねえ!テメーらが勝手に喧嘩して俺と弟の人生めちゃくちゃにしたんだろうが!てめーなんぞ、死んじまえ!

    そう言って電話をぶち切って、3年ぐらいお袋とは話をしなかった。

    まあ、それでもさ、あなたに言いたいのは、今お袋さんと一緒にいるのが辛いんなら、電話はブロックして、ラインも連絡先消去してもいいんだよってことさ。君はあと3か月となって、ガードが破れてしまった。ふっと気が緩んだんだ。そこにおふくろさんがつけいってガーガー言うんだろ。ケータイブロックしろ、ラインも削除して良い。心配しなくていいんだ、実の親子ってものは、今関係を切ったって、どうせ何時かどういう形かは別にして、いずれ関係が戻るから。今3か月やそこらそのめちゃくちゃなお袋さんが耐えがたいなら、切っちまえ。心配要らない。いずれ、今とはまったく違う形ではあるだろうが、どのみち実の母子は関係が出来る。今君が耐えがたいなら、切って大丈夫だよ。

  • 投稿日時:2024/01/26

    先日石巻に大雪が降った。私が帰る時猛吹雪で、どうにかこうにか三陸道で仙台に戻った。ところが翌朝、クリニックの駐車場は綺麗に雪掻きされていた。私を含めクリニックのスタッフは誰もやっていない。2階のデイサービスの方でやってくれたのかと思ったら、デイサービスの方もやっていないという。誰かが朝、ズッポリと積もった雪を綺麗に履いてくれたのだ。近所の誰かなのだろうが、誰なのか全く分からない。ただただ、ありがたい。


    どなたかがこのクリニックのために黙って大雪を履いてくださった。ありがたいとしか、言いようがない。そしてそういう方がご近所にいるということは、ご近所のかたが私たちのクリニックを大切だ、支えようと思ってくださっているということだ。経営は苦しい。毎月苦しい。しかし私たちは努力しなければならぬ。怯んではならぬ。地域の皆様からこれからもあゆみ野クリニックは大切だと思っていただけるように、精魂込めて精進しなければならぬ。これからもこのクリニックは山あり谷あり、運営は多難だろう。しかし苦しい時は、今度のことを思い返すのだ。このご恩には、ただただ真面目に、真面目に診療を続ける他にお返しする方法がない。

     

    精進します。

  • 投稿日時:2024/01/26

    訪問介護の点数が減らされました。表向きの理由はあれこれありますが、要は在宅はコストが高いというのが本当の理由です。在宅はいずれハシゴを外しにくることは予測してました。在宅診療所あまりにも増えすぎてるし、質もかなりピンキリだし。


    しかし何より在宅というのは本質的には経済的に効率悪いはずです。だってどんな業種であれ、効率よくするには1箇所に集約化して数を集めて流れ作業でやる方が効率いいに決まってます。一つ一つ手作りより工場でライン組んでオートメーションで作業した方が効率がいいのは当たり前。在宅が安上がりだというのは家族の介護を経費0円と計算したからです。でも家族介護がほぼ不可能で、医療も介護も全部在宅サービスとなれば、どう考えたって施設介護よりコスト嵩む。だって施設に高齢者集めてラインで流したほうが一人一人自宅に人間が行って医療や介護するより確実に経済的には合理的ですから。


    もちろん在宅には住みなれた自分の家で医療や介護が受けられるという患者にとっての大きなメリットはあります。しかし国が在宅を推し進めた本音はそんなことじゃなかった。施設作れば金かかるから、家族に介護させよう。家族の介護は人件費タダだから、多少色々サービスつけてもその方が安いだろうというものだったはずです。でも家族の介護というものがもはやなりたたない以上、人件費タダで働く家族介護がないんだから、在宅はえらく不経済ということになるわけです。どう考えたって施設にみんな集めて介護した方が安い。


    在宅を推進した国の本音が経費削減であった以上、かえって経費が嵩むとなれば縮小に舵を切るのは当たり前です。

  • 投稿日時:2024/01/26

    先日「膀胱炎のようだ」と来院した40代女性。尿検査で白血球、潜血、細菌が出ていたので「なるほど、膀胱炎ですね」と抗生剤を出しました。5日分ほど出したら膀胱炎は治ったそうです。

     

     

    ところがその方、2週間もせずにまた「膀胱炎らしい」といて来院されました。変だなあと思いまた尿検査をやったら・所見が無い。尿検査異常なしなんです。

     

     

    あなたは時々こんなふうになりますか、と聞いたら、ええ、時々なるんですと。その度に抗生物質を処方されて良くなるんだけれども、何度も繰り返すんだそうです。

     

     

    前回は尿検査で確かに膀胱炎でしたから抗生物質を出しましたが、今回は尿は綺麗なので、膀胱炎とは違うようです。念の為尿を培養に出しておきますが、今直ちに抗生物質をまた出すということにはなりませんと説明したのです。

     

     

    こういう人って、結構います。泌尿器科で「無菌性膀胱炎」とか言われて大抵猪苓湯が出るんです。しかしそういう人で猪苓湯飲んでいて効いてますか、と聞くとほとんどの人が首を傾げます。よく分からないけど、泌尿器科の先生が出すんだから飲んでいる、ってわけです。

     

     

    細菌感染じゃ無いのに尿意が頻回でなんとなく尿がスッキリ出ない。排尿してもいつも尿が残っているようだと。さて、漢方でどうしようかと考えました。

     

     

    脈をふれると沈んで弱い。舌はそんなに所見がない。舌下静脈は怒張していますが、40代女性は大抵舌下静脈多少は怒張するものです。生理はまだ順調に来る。足腰は冷える。下腹も冷える。冬場や夏場エアコンが効いた部屋にいると尿意頻回や残尿感がひどい。

     

     

    腎陽虚で溢水です。真附湯がいいでしょう。しかしツムラのエキスは附子が足らないから、三和のアコニンサン錠を朝夕三錠ずつ足しました。腎の陽気が虚すと膀胱の働きがうまく制御できなくなり、頻尿や残尿感が起きる。陽気が虚すということは体の芯が冷えるということなので、真冬や強いエアコンの効いた場所などで起こりやすいわけです。

     

     

    結局この方は真附湯4包分二、アコニンサン錠6錠分二5日間ですっかり良くなりました。40代も半ばになって、どうも最近色々不調だといわれるので、当帰芍薬散を朝夕一包でしばらく続けてもらうことにしました。漢方薬って長く飲むんですよね、と聞かれたので、「だってこないだのお薬は5日で治ったでしょう。でも今日出すのはいわば体質改善だからしばらく飲むことになります」と説明したわけです。無菌性膀胱炎は猪苓湯って、なんとかの一つ覚えでは漢方効きません。

  • 投稿日時:2024/01/23
    咳止めが全国的に手に入らない煽りで、保険病名に咳とある漢方薬も軒並み手に入りません。しかし保険病名に咳とあっても実際は咳止めではない漢方薬があります。勘違いしないように説明します。「咳に効かない漢方薬」。YouTubeです。
  • 投稿日時:2024/01/19
    あゆみ野クリニックで鍼を使う場合は二つ。

    急激な痛みの患者。もちろん急激な痛みって何か原因はあるので原因究明しなくてはならないのだが、とりあえず痛みを止めると言う時。頭頸部なら風池、風府、百会、肩中、肩外、合谷などにポンポンと刺して痛みが止まることが多い。腰痛なら腎兪、陽関、大腸兪、腰兪、委中。まあともかく痛み軽くしましょうと言うこと。

    鍼の効果があるかどうかと言う見定め。神経疼痛などは主に仙台の神谷哲治先生に紹介するのだが、百会にまず刺して、風池、合谷、委中などを刺してみて、ある程度反応を掴む。行けそうなら神谷先生紹介。やはり石巻から仙台の自費の鍼灸院紹介となると患者の負担もあるから、ちょっと効果を見てみる感じ。

    どちらも鍼治療の代金は取れない。取ると混合診療になるから。まあ、本格的にやるわけじゃないから、サービスと割り切っている。曜日決めて鍼治療の日とすれば無論自由診療で料金いただけるが、そこまでやるほどの腕じゃないし、それに一日中鍼やっても大して儲からない。それに他の患者さんは来るのでその日は鍼しかやらないと言うわけに行かない。

    まあまあ、本格的じゃないのは分かってるけど、鍼灸とは効くものだと言うことをきちんと理解しているし、どう言う患者に鍼灸を薦めるべきか、誰に紹介したら間違いないと言うのも分かっているから(鍼灸ではこれが特に大事)、これでだいぶ診療の役に立つんです。
  • 投稿日時:2024/01/12

    先日発熱外来を受診された方から「聴診はしないのか」という声があったと聞きました。

     

     

    聴診というのは儀式ではないので、必要な時に目的があってやります。ただ当院のようなちっぽけなクリニックでもレントゲンや心電図を普通にその場で撮れるようになっている今、聴診の必要性は限られています。

     

     

    代表的なのは喘息発作でしょう。気管支喘息というのは発作時に聴診してあの典型的な「ピュー」っと言うパイプに空気が通るような音を聞けばそれで診断確定です。その音だけで「喘息発作」と診断します。逆に明らかに喘息発作のはずなのに胸を聴診して何も音が聞こえない時は「無音性喘息」と言ってやばいのです。それはその患者さんがほとんど窒息しそうだと言うことを意味します。

     

     

    内科初診の患者さんは全て聴診をします。これは主に心臓弁膜症を引っ掛けるためにやります。心臓が血液を全身に送るポンプなのはご存知と思いますが、心臓の中にはその血液が逆流しないよう三個の弁がついています。僧帽弁、三尖弁、大動脈弁です。こうした弁が硬くなったり逆流したりすると聴診で心雑音が聞こえます。弁膜症と言います。だからまず最初の外来で「心雑音はないかな」とみている訳です。胸のどの辺に雑音が強く聞こえるかで、おおよそどの弁に問題があるかまで当たりがつけられます。昔はもっと詳細な聴診を行ったようですが、今では心臓エコーというものがありますので、詳細な検査は心臓エコーでやりますから、聴診の役目は「最初に引っ掛ける」だけになっています。

     

     

    肺の慢性疾患で特有の呼吸音がすることがあります。しかしそういうのは今はレントゲンなどの検査がすぐその場でできますから、あまり重要ではないです。

     

     

    訪問診療で往診先、となるともちろん聴診は大事です。往診先にレントゲンはないですから。肺炎の音とか、胸に水が溜まっていないかとか、聴診で探ります。もちろん「怪しい」と思えばすぐクリニックに来てもらうか、容体が悪ければ入院紹介になりますが、「とりあえずこれはまずいぞ」という「医者の感覚」を持つのに聴診は大事。

     

    私が聴診を使うのは、だいたいこんなところです。だから発熱外来の患者さんを聴診するというのは、普通はやりません。発熱外来だけども息が苦しいと言われると、血液中の酸素濃度がその場で測れますから、それが下がっていれば患者さん本人に特別なマスクをつけてもらってレントゲン、という方が優先になります。そういうことは別ですが、一般に発熱外来で聴診する意味はないので、やりません。38度の熱が出てふうふう言っている人に弁膜症があるかないかみても、患者さんから「今日はそっちじゃない」と怒られてしまいます。

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