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  • 投稿日時:2024/02/28

    2024年2月27日夕方4時過ぎに当院あゆみ野クリニック発熱外来に患者が受診した。検査をして新型コロナと判明した。その患者は非常な高齢で、宮城県東松島市にある真壁病院に掛かりつけの患者だった。家族が言うには、先に真壁病院に熱があるから受診したいと伝えたところ、「発熱患者の対応は午前中だけだ」と言われ、診察してもらえなかったという。それで家族が困り果て、当院の発熱外来を初診したのだ。


    発熱外来でコロナと診断したが、真壁病院からの処方をお薬手帳で見ると、内臓疾患に対する薬が複数出ており、そのような疾患を有していて、かつ非常な高齢という条件も加味すれば、その人は今のコロナであっても重症化リスクが極めて高い患者さんだと判断した。そこで真壁病院に電話し、応対した事務の者に「こう言う人が来て、コロナと診断したがそちらで掛かりつけのようだから、そちらで一旦対応されてはどうか」と伝えた。すると事務の人間が、「残り番の医師がいるので相談したいから、紹介状(診療情報提供書)をfaxしてくれ」というのでそうした。するとややあって先方から電話があり、残り番医師に相談したがコロナ病床が満床だから受けられない」という。私は「いやしかしこの人はそちらの掛かりつけなんだし、これまでの診療情報もそちらにあるのだから、まずはそちらが受けて、救急搬送するなら貴院からなさったらどうですか」と言ったがその事務の人間は「ともかく受けられないという事だから」の一点張りだった。


    そもそも残り番の医師がいたということは、それは真壁病院の常勤医である。常勤医が残り番として院内にいながら私という医師に対して事務員に対応させること自体、おかしいし失礼だ。失礼はさておき、その患者の処方から推測するにその人はコロナ重症化リスクが非常に高いのは一見して明らかなのだから、掛かりつけ病院である真壁病院が対応し、真壁病院が有している診療情報と共に高次病院に搬送するならそうすべきであった。なぜ常勤医師がいたのにその様な対応を完全拒否したのか。

    たまたまその時院内にいたのがどこかから来たアルバイトの当直医だというならまだ諦めも付くが、常勤医が残り番としているのにそういう無責任極まりない対応をした。これほど掛かりつけ患者に無責任な対応をする病院を、私は未だかつて見聞したことがない。仕方なく私が石巻日赤と交渉し、救急車を呼び、自ら同乗して搬送した。
    真壁病院の一連の対応は、何から何まで無責任の一言に尽きる。医療機関としてあり得ないほどの無責任さである。よってここに彼我双方の名を挙げ、公然と告発する。

    石巻市
    あゆみ野クリニック
    院長 岩﨑鋼

  • 投稿日時:2024/02/27

    オンライン漢方診療初診の人に「漢方薬の保険適応病名は一切根拠がないです」という話から始まって、高血圧の治療は基本西洋医学の薬がベースになるが、ストレスが関係する人には降圧剤に何か一つ漢方薬を上乗せすることもあるよという話をし、さらに腎虚とは何か、血虚とは何かという話をしてフレイルの説明をし、降圧剤を含む西洋医学の治療を続けること、これこれの検査を受けることと勧めた上で八味地黄丸と大防風湯をベースに腎陽虚と血虚血おで痺証という弁償に基づいた煎じ薬を処方した。

     

     

    これでざっと1時間だから、初回施設使用料7千円はいただくわけです。

  • 投稿日時:2024/02/26

    今保険診療で手に入らない薬が咳止めだけではないというのは前回お話ししました。日本製薬団体連合会が行っている調査では、2024年2月現在保険薬価収載されている薬の内25.9%が「通常出荷以外」になっています。後発品(ジェネリック)に限れば35.8%が「通常出荷以外」です。これだけの薬が保険診療ではまともに手に入らないのです。

     

     

    今日、衝撃的な情報が入ってきました。最も基本的な抗生物質であるペニシリン、商品名はサワシリン、あるいはアモキシシリンですが、この入荷見込みが立たなくなったというのです。今薬局にある分でおしまいというのです。

     

     

    咳止めのアストミンの公定薬価、つまり医療保険で決められた値段が一錠5.7円だというのは前回書きました。サワシリン(250mg)1カプセルは先発品でも10.2円です。サワシリン(アモキシシリン)は外来で肺炎を治療するために絶対に欠かせない抗生物質です。これが手に入らないということは、外来では肺炎を治せないということです。肺炎を治せなければ、患者さんは死にます。

     

     

    ペニシリンは世界で最初に見つかった抗生物質ですが、それは第二次大戦中のことでした。戦前はなかったんです。だから戦前、肺炎で死ぬのは普通でした。治療薬がないのですから。今サワシリンの入荷の見込みが立たないというのは、日本の保険医療は戦前に戻ったということです。しかしアストミン一錠5.7円とかサワシリン1カプセル10.2円では薬を供給できないなんてことは、誰にでもわかる話です。誰にでもわかるということは、政府の役人も政治家もわかっているということです。

     

     

    すると、政府の意図は見えてきます。まあ、わかりやすい話ですが、政府はこういう薬は保険から外そうとしているんです。以前、漢方薬を保険から外すとか湿布を外すとか試みましたが、皆失敗しました。それで、「絶対に供給できない価格にしてしまえば、自動的に薬は保険診療からなくなる」と考えついた頭がいい役人か政治家がいたんでしょう。保険薬価はあまり面倒くさくなく政府がいじれますから、「絶対薬が供給できない薬価」にしてしまえば、必然的に薬は保険診療からマルっとなくなるわけです。どこかで潮時を見て「こういう薬は自費です」とやるんだと思います。

     

    まあ国民も「医療費は安ければ安いほどいい」と思っているようですし、こういう政府の方針にも多くの人は賛成するんでしょう。日本国民って、集団マゾですから。

     

    そして、これも前回も書きましたが、保険診療から薬が外れた先には、診察も保険から外れるという事態が待っています。だって今、再診料、つまり2回目から医者が患者を診察する費用が730円です。今はこれが基本料金で、高血圧や糖尿病などについては2500円とか追加料金があるから医者はどうにかやっていますが、6月からこの追加は無くなるんだそうです。そうなると、一人患者診察して730円、処方箋発行して680円、合わせて1410円ですということになってしまいます。無論皆さんの窓口負担はその3割とか1割とかですが。患者さん一人診察して1410円では医療機関潰れます。だから必然的に医者も保険診療から抜けるしかない。そういう日が、もう目前に迫っているのです。

  • 投稿日時:2024/02/26

    日本の医療は国民皆保険と言うが、現実的にはそれは既に破綻している。咳止めが無いという話を聞いたことがある人は多いだろうが、現実には解熱鎮痛剤の代表であるカロナール(アセトアミノフェン)の供給も極めて不安定だし、より恐ろしいのは基本的な抗生剤であるペニシリン(サワシリン、オーグメンチンなど)がしばしば手に入らない。今花粉症の季節だが、花粉症の鼻炎症状に著効を示す点鼻ステロイドも供給の見込みが立たない。先日ある人がビタミン欠乏症から認知機能が落ちていることが判明し、アリナミンを処方したがそれも薬局から「入荷の見込みが立たない」と言われた。

     

     

    日本製薬団体連合会が行っている調査では、2024年2月現在保険薬価収載されている薬の内25.9%が「通常出荷以外」になっている後発品(ジェネリック)に限れば35.8%が「通常出荷以外」だ。通常に出荷出来ていない、と言うことだ。

     

     

    この理由はいくつか挙げられているが、根本的には医療保険で定められた公定薬価が低すぎるというのが一番の問題だ。「ない、ない」と言われている咳止めだが、一番代表的な咳止めであるアストミン(ジメモルファンリン酸塩)10mg錠の保険薬価が5.7円なのだ。一錠5.7円で薬は作れない。そもそも最終末端価格が5.7円から逆算していくと、海外からこの薬の原材料を買えない。これが最大の薬不足の原因だというのは、「薬局で自費で買う咳止めは充分に供給されている」という事実によって証明出来る。薬局で自費購入する咳止めは当然製薬会社、供給に関わる業者などがきちんと利益が出せる値段で売られているわけで、一錠5.7円ではない。「それなら売れる」というわけだ。

     

     

    咳止めやビタミン剤なら薬局で自費で買える。しかし日本の今の法律では抗生物質は医師の処方箋がなければ薬局は売れない。ステロイドの軟膏は薬局でも売れるが点鼻ステロイドは売れない。インフルエンザの小児に使うタミフルドライシロップも今ほとんど入荷しない。

     

     

    おそらく遠からずこうしたものは全て医師の処方箋無しに自費で購入することになると思う。なにしろペニシリンが無ければ肺炎の人は死ぬ。自費だって死にたくないからペニシリンを薬局で買う人は増えるだろうし、それは最初は密かに始まるかもしれないが、命には替えられないのだからいずれ公然と行われるようになるだろう。医者も「診断はするが薬は薬局で自費で買ってくれ」と言わざるを得ない。

     

     

    つまり、国が公定価格を非現実的なまでに引き下げた結果、製薬業界が保険医療から撤退を始めているのだ。

     

     

    そして次には、「薬が自費になったんだから診断も自費です」となるはずだ。何しろ医者の診察料が再診で730円なんだから、いつまでも医者がそれを容認するとは考えられない。すでに製薬業界は保険医療に薬を供給しなくなったのだから、医者も再診料730円なら保険では診療しませんとなるはずだ。

     

     

    それに異を唱えたい人は、いくらでも異を唱えていい。いくらでも製薬メーカーや医者を非難していい。しかしいくら非難しようとも、咳止めは5.7円では作れない。そしてもうすぐ、我々医者が「730円では患者を診察出来ない」と言い出すだろう。その日はそう遠くないはずだ。

  • 投稿日時:2024/02/24
    よく「漢方で体質改善してほしい」と言うご要望があります。それで、その一例をご紹介します。体質改善というのは薬用人参だなんだで体力を補うということではないのです。

     

    山本巌先生が亡くなったのが2001年で、私が医者になったのが1990年だから、彼と私はおそらく東洋医学会全国総会の会場ロビーかどこかで何回かすれ違ったことがあるのだろう。しかし当時私は山本巌という人が如何に名医なのか全く知らなかったから、面識はなかった。

     

     

    しかし色々と山本巌が遺したもの、あるいはそれを今残そうとしている人々の本を読むと、彼と私はどこかに通った治療をしているように感じる。

     

     

    先日当院に「テストの時吐いてしまう」という高校2年生の男子が来た。2年生の2学期のテストからそういう症状が起きたという。それまでそういうことはなかったそうだ。しかし着いてきた母親に聞くと、彼は小さい頃からあまり集団に溶け込んで積極的に人と交わる性格ではなかったという。

     

     

    望聞問切をした結果、私はこう言う治療をやることにした。

     

     

    患者さんに次のように説明した。

     

     

    これから漢方の治療をするから、君の治療を理解するために必要な最小限の漢方医学を説明するよ。もっとも僕の治療は日本式漢方と言うよりは中国伝統医学、中医学というものなんだけど、まあ聞いてくれ。

     

     

    中医学では、人間の身体の中を三つのものが流れていると言うんだ。気、血、津液(しんえき)。このうち血というのは、面倒な議論を抜きにしたら血液と考えていい。津液というのも、「この概念はそもそもインドのアーユルヴェーダ医学から・・・」というような議論を抜きにしたら体液と思って良い。血液と体液は全身を巡っている。これは分かるね?

     

     

    青年は頷いた。

     

     

    さて、血液と体液は全身を巡っているが、どちらも物質だから、それが自ら巡る、動くという事はない。例えば今君の血液を採血したら試験管の中で血液が巡るという事はないわけだ。

     

     

    若者、これも頷いた。

     

     

    しかし体内では明らかに血も津液も巡っている。と言うことは、これらを巡らせるエネルギーがあるわけだ。これを気という。

     

     

    彼はちょっと考えてから、再び頷いた。

     

     

    気というものは基本的にはエネルギーだ。それも単に人体の中のエネルギーだけじゃない。君は生きている以上、呼吸をしたり飲食をしたりして、大自然のエネルギーを日々取り入れている。つまり自然界のエネルギーの一部が君の体内のエネルギーだ、分かるね?

     

     

    彼はごく自然に頷いた。

     

     

    だから気はエネルギーであり、これは人体の内外を絶えず巡っている。しかしだね。一方君という人体においては、常に様々な情報伝達が行われている。神経だけでなく、ホルモンだのペプタイドというアミノ酸が数個くっついたものだの、色々なものが体内で情報を伝えている。生物の授業で習ったと思うんだが、こういう情報伝達においてはATPと言うものが関係しているよね。ATPを分子から切り離すときにエネルギーが生じ、それによって情報伝達が行われるという授業を習ったかな?

     

     

    彼はそれを習ったようだ。

     

     

    つまり、情報伝達というものは常にエネルギーのやりとりだ。だから気がエネルギーである以上、こうした情報伝達も気と呼ばれる。気というものは、エネルギーであり、かつそのエネルギーを用いた情報伝達でもある。分かるかな?

     

     

    彼は大きく頷いた。

     

     

    さて、君を色々と診察した結果、君の体内では気、血、津液全てがどうもうまく巡っていないようだ。君がテストの度に吐き気を起こしてしまうのは西洋医学的には「心因反応」と言うんだが、その背景となる要因を中医学的に探った結果、どうやら君の体内ではこの気、血、津液が全て順調に巡っていないと私は考えている。それでいま、君に桂枝茯苓丸という薬を出す。

     

     

    桂枝茯苓丸というのは普通女性に使われることが多い。月経不順や更年期障害でよく使われる。しかしこの漢方薬の生薬を考えれば、これは気、血、津液それぞれを巡らせるための薬なんだ。桂枝は気を巡らせる、茯苓は津液を巡らせる、桃仁、牡丹皮、芍薬は血を巡らせる(この一行は彼には説明しなかった)。だから私はまずこの薬で君の気、血、津液の巡りを正常にしていく。その上でテストが近くなったら吐き気を予防する薬を出す(とりあえず小半夏加茯苓湯を念頭に置いているが、茯苓飲合半夏厚朴湯でもいい)。こうやろうと思うんだが、どうだい?

     

     

    母親から質問。「日常生活で気をつけることはありますか?」

     

     

    「運動をしなさい。部活は何?新聞部か。それはとてもいいことだが、運動を日常的にした方が良いな。食べ物はあまりあれこれ気にしない方が良いよ」。

     

     

    と言うわけで16歳男子に桂枝茯苓丸を出した。朝夕食後、一包ずつ。

     

     

    体質改善というのはきちんと弁証してやるものだ。単に補剤を出せば良いわけではない。山本巌先生がこんな時何を出したのかは分からないが、おそらく山本先生がこの診療を知れば、「まあ、それでもいいよ」と言ってくれるのでは無いだろうか。

  • 投稿日時:2024/02/22
    今朝、大雪と三陸道における事故交通規制で出勤が遅れました。そうしたらある方(当院職員ではない方)が早朝当院駐車場の雪かきをしてくださっていました。この方は前回の大雪の時も当院駐車場の雪をはいて下さったそうです。こんな大雪の中、本日は10名の患者さんが来院されました。

    ありがとうございます。
  • 投稿日時:2024/02/20

    なかなか糖尿病のコントロールがうまくいかない奥様。メトホルミンにフォシーがにと加えてもHbA1cが8以上。おかしいなあ、インスリン出てないんだろうかと思って採血してもインスリンはちゃんと出ている。困り果てた顔の私を前に、奥さん鞄からあるものを取り出した。

     

     

    これね、お医者さんに見せちゃダメって言われたんだけど、核酸っていうの。体にいいんだっていうから飲んでるんだけど。

     

     

    そうですか、ちょっと拝見。どれどれ、原材料:砂糖・・・。

     

     

    えーと、これは毎日飲むんですか?

    そう、朝昼晩と3回。


    ・・・。

  • 投稿日時:2024/02/18
    これは今夜の我が家の夕食で出たおかず。長いもをすりおろして卵を落とした奴です。長芋、つまり山芋はれっきとした生薬です。山薬(さんやく)といいます。胃腸の薬であると共に八味地黄丸(はちみじおうがん)など老化防止の漢方薬によく配合されます。

    山芋、つまり山薬が老化防止作用があると考えられたきっかけは、おそらく迷信だったと思います。昔々、山芋が生薬になった頃は天然物、つまり今で言う自然薯だったのです。あの何年も経って土中深く真っ直ぐ下に張っている根は如何にも強靱で、これを食べたら精が付いて老化防止になるに違いないと考えたのでしょう。しかし今の山薬はほとんどが栽培品ですから、スーパーで売っている長芋と同じです。

    ところがですね。実は意外なことがあるのです。こうやってすりおろした長芋に卵を一つ混ぜると、このとろとろ感は脳卒中や認知症があって嚥下障害を持つお年寄りが誤嚥しないで飲み込むのに丁度良いのです。脳卒中などで嚥下中枢がやられると誤嚥を起こし、誤嚥性肺炎になります。そういう人が一番飲み込みやすいのがこう言う「とろとろ感」があるものなのです。ゼリーとかプリンとかムース状にしたものが工夫されていますが、長芋(山芋)を擦ったものはまさに格好の嚥下食です。芋ですから主成分はデンプンです。なんだデンプンかあ、じゃないのです。デンプンは炭水化物。炭水化物というのは簡単に言えば糖を繋げたものですから、高齢者の弱った胃腸でも簡単に消化吸収出来て糖に変わります。糖はエネルギー源です。

    つまりすりおろした山芋は要介護高齢者の食事として最適です。こうやって卵を一個落とせばタンパク質も補充出来ます。まさに昔の人が考えた通り、年寄りの精を付けるわけ。昔の人は自然薯のすごい生命力を覧て「老化防止になる」と考えたのでしょうが、現代老年医学の観点から見てもこれはフレイルな(体力が弱った)高齢者の格好な栄養源です。

    なお山芋は大きく言うとヤムイモの属、里芋はタロイモの属です。どちらも東アジア一帯に広く自生していますが、天然のタロイモ系は大方毒をもっています。栽培品は品種改良で毒をなくしているのですが、東南アジアの一部では毒があるタロイモを色々と工夫して毒を除き食用にするようです。しかしタロイモ系の芋はもともとが毒性をもつものがおおいので、生薬にはなっていません。漢方の元である中国伝統医学の生薬は毒を持ちながらうまく毒を減弱して薬として使うというのがいくつかあるのですが、タロイモ系統の毒芋を使わなくてもヤムイモ系の無毒な芋で充分滋養強壮になるから、あえてタロイモ系を生薬にはしなかったのだろうと思います。
  • 投稿日時:2024/02/17

    山菜の季節です。それで、山菜採りに長けた方はご存じと思いますが、漢方医としてご注意申し上げます。


    トリカブトというものが猛毒だというのはご存じの方が多いでしょう。ところがこのトリカブト、実はその辺の野山至る所に自生しています。そして厄介なのは、ニリンソウという美味しい山菜とトリカブトがほとんど区別が付かないという事です。無論山菜採りの名人なら見分けますが、素人はほぼ区別が付きません。


    ニリンソウはおひたしにするのです。ぐつぐつ煮込むものではない。ところが、おひたし程度の加熱ではトリカブトの毒は抜けないのです。それで例年ニリンソウと間違えてトリカブトを食べて毒に当たったという被害が起きます。


    トリカブトの毒はaconitine(アコニチン)です。アコニチンは充分加熱すると加水分解して毒性がなくなり、そうするとトリカブトは附子(ぶし)という生薬になります。痛みや冷えを改善するのに欠かせない生薬です。しかし附子は充分に加熱して毒性を除いたものであって、生のトリカブトをうっかり食べたら即死します。アコニチンはトリカブトという植物のあらゆる所に含まれているので、葉でも茎でも根でも、生、あるいは湯がいたとかおひたし程度の不十分な加熱ですと、死にます。本当の生ですと、葉っぱ一枚食べただけで死にます。


    白河附子というのがあって、これはほとんど加熱していないトリカブトです。鎮痛効果が高いというのですが、私は恐ろしいので使ったことがありません。みなさんに理解していただいたいのは、ニリンソウという無毒で美味しい山菜とトリカブトがほとんど見分けが付かないという事です。相当のプロでないと、この見分けは付きません。特にニリンソウが美味しい新芽の頃は、トリカブトとの鑑別は至難の業です。ですからニリンソウを見つけたという場合は、本当の玄人に良く鑑別して貰ってください。でないと・・・死にます。

  • 投稿日時:2024/02/13
    先日仙台から石巻に通勤途中、胸痛が起きたのです。それほど激しいものではありませんでしたが、私は高血圧と糖尿病を治療中ですから、どうしたって急性心筋梗塞が頭に浮かびます。クリニックに飛び込んですぐ看護師に心電図を撮って貰うと「微妙」。心電図の自動判定は「心筋梗塞の疑い、医師の判定を要する」でした。その医師である私が覧ても「どっちつかず」。ただちに日赤に電話、患者は自分で状況これこれと説明すると「ただちに救急車で」。すぐ救急車を依頼し日赤の救急外来に飛び込んだのです。


    すぐに心電図再検、緊急胸部造影CT、採血が行われ、その結果「急性心筋梗塞かどうかの診断をするには心臓カテーテルをやる必要があるが少なくとも一分一秒を争うわけでは無い」となり、危険な不整脈の患者さんの治療が優先されたわけです。真に合理的な判断です。


    その間4時間ほど、私は日赤の救急外来で色々なモニターを付けられて待機していました。急患が次々搬送されてきます。たくさんモニターがついてベッドで待機していたのですから正確に時間を計って数えていたわけではありませんが、「絶え間なく」急患が搬送されてきます。敢えて時間的表現を使うなら10分から15分おきに、と言う感覚です。私が寝ているベッドの右側に高齢の誤嚥性肺炎とおぼしき患者が搬入されてきたと思うと左には交通事故で骨折した患者が運び込まれる。これが4時間ばかりの間ひっきりなしでした。


    途中で様子を見に来てくれた救急のドクターに「いつも当院からの救急搬送でお世話になっていますが、しかしこれは凄まじいですね」と申し上げたらドクターがちょっと苦笑いしながらも大きく頷いて「いや、先生からの紹介はいつも初動検査をきちんとして戴いてデータを付けて送っていただくので当方は助かっています」と言って下さる。そりゃあれだけひっきりなしに急患が搬送されるのですから最低限のデータが有るか無いかは当然違うのでしょう。しかしあの状況で、医師も看護師もそれぞれの患者に対して居丈高にもならず、きちんと落ち着いて病状を説明している。私は思わず目頭が熱くなりました。


    これはものすごいことです。私はかつて坂総合病院、総合南東北病院という二つの救急病院で勤務したことがありますが、その私が覧ても石巻日赤ER(Emergency Room、救急室)は「ただ事では無い」という状況です。普通あの状況では、医師も看護師も患者には有無を言わせぬ切り口上で話を進めていきます。緊急を要する患者だけを相手にしているのですから、「患者様」なんて話にはなりません。それは日赤ERも同じですが、私が驚いたのはあれだけ立て続けに搬送されてくる救急患者に医師も看護師も極めて落ち着いた態度で接していたことでした。


    これは超絶技巧なのです。「火事だー」と言うときに落ち着いて、しかしよどみなく素早く人々を納得させ避難させるのと同じと考えればおわかり戴けるでしょう。あれほどの救急なら「命助けるだけで充分」の筈です。それを患者に対して落ち着いて、冷静に対応するというのは、まさに超絶技巧です。


    しかし心療内科をやっている私から覧れば、「日々これだけの超絶技巧を絶えずこなす医療チームが受けている精神的ストレスは如何に厳しいか」という見方にもなります。「これは、厳しい」と私は感じました。並の厳しさではありません。日赤救急外来は、一般の「限界」を遙かに超えたレベルで頑張っているのです。


    石巻市のみならず、石巻広域医療圏、つまり北は登米、気仙沼、南三陸、女川、東松島まで、「これは緊急」と判断された患者は全て石巻日赤が一手に引き受けています。地元医療機関はひとまずは受けますが、「手に負えぬ」と判断したらすぐ日赤に転送するしかないのです。石巻日赤が完全満床という連絡が入ったのはもう一年以上前です。それ以来、ずっと完全満床なのです。完全満床というのは退院患者がいないというのではありません。昨日一日で十数人を退院させたが、そのベットは昨日のうちに全て埋まって結局完全満床が続いているというのです。


    想像を絶する厳しさと言って良いです。あれで後どれくらい日赤が今の体制を維持出来るのか・・・。坂総合病院や総合南東北病院と言えば宮城県の代表的救急病院ですが、そこを経験した私ですら、この厳しさには息をのみました。
    噂に聞くのと自分が患者として現場で経験するのは大違いです。石巻日赤の救急が崩壊すればそれはすなわち石巻広域医療圏そのものが崩壊するのですが・・・ERの片隅で状況を見ているうちに、私は自分の胸痛などはどこかに忘れ、「これは何処まで維持出来るのだろうか」とそのことで頭がいっぱいになってしまったのでした。

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