老年内科とはどんなものか

2023/06/03

この投稿は関係者ご家族の了解を得ています。

 


あゆみ野クリニックには「老年内科」があります。割と多い患者さんは物忘れで認知症を心配してくる人です。そういう人の診断を付けて治療するなり、介護保険のルートに乗せるのは大事な仕事です。

 


しかし時に「老年内科救急」というケースがあります。

 


ある非常に高齢の方の娘さんが「最近父の具合が悪いんです」と御本人を当院に連れてこられました。御本人は数ヶ月前に当院の発熱外来に受診され、コロナと診断しましたが、その後の経過は訊いていませんでした。今回伺った限りではその時は当院が出した漢方薬で重症化せず回復したそうです。

 


しかし最近どうも元気がない、むくんでいる、胸が苦しいと訴えるという事で、当院を受診されました。実はその方は血圧などで別のクリニックに掛かっておられたのですが、何故かご家族は当院に連れてこられました。
歩くのもやっとというその方をどうにか院内に入れて色々検査したらかなりな心不全です。胸水も溜まっており、そりゃあ胸が苦しいでしょうという感じです。


さてどうしましょうという事になりました。その方は非常な高齢です。しかしご家族としては「出来ればもう少し長生きしてくれれば」と仰います。そうであれば、これは救急病院搬送になります。石巻なら日赤でしょう。助けるとあればそうなります。


しかし私はご家族にこうお話ししました。
「日赤に搬送するという事は、治療しろという事です。となれば点滴が付いて酸素が付いて、おしっこの管が付きます。それで本人が外そうとすれば両手拘束ですし、それでも騒げば抗精神病薬で鎮静となります。それでも救命を希望されるという事であれば・・・?」

 


ご家族(娘さん)はしばし考えた上で「それはしないことにします」と言われました。まあ御本人は年齢は明示しませんが「極めてご高齢」ですから、それは忍びない、と言うことがご理解戴けたようです。

 


その方は施設に入居しておられたので、事がそう決まればただちに各方面を動かさなければなりません。施設には娘さんから「施設看取りになります」と伝えてもらいました。施設長は「警察沙汰になるんじゃないか」と相当驚いたようですが、たまたまご家族がその辺の情報をお持ちだったので、在宅訪問診療にすれば警察沙汰にはならないという事を説明し、ご納得戴きました。それと同時に私はその地区の訪看センターに話を繋ぎ「明日から訪問看護をお願いします」と言いました。訪看センターも驚いたようですが、そこはプロなので、これこれこう言う人ですと説明したら理解していただき、すぐに動いてくれました。私が訪問看護指示書を出すのと同時に訪問看護が実施されました。

 


重症心不全で呼吸不全がありますから、在宅酸素が必要です。私は在宅酸素の業者に電話し、「今日から開始する。指示書は明日書くから今日ただちに本人の居る施設に器具を届けてくれ」と依頼し、業者はその通り素早く動いてくれました。

 


そうやってまずは臨時往診、次いで訪問診療の契約を結び、施設の管理者に改めて医者の私から「訪問診療をやりますので警察沙汰にはなりません」と説明して安心して貰い、看取りの算段も付けました。


失礼ないいかたになるかもしれませんが、その方のかかりつけの内科ではこのような動きは取れなかったと思います。仮に心不全と診断しても、型どおり日赤に送ったかも知れません。

 


これは「老年科救急」です。救命救急とは違いますが、今その高齢な人にとって何がベストかをとっさに判断し、家族に素早く合意を取り付け、訪問診療によるターミナルケアのシステムをその日の内に作り上げました。もちろん、関係各所がそれに応じて迅速に動いてくれたから出来たのですが。


こういうことをやるのが「老年科医」なのです。あゆみ野クリニック老年内科は時にこう言う素早い仕事をします。高齢者医療だからのんびり構えていていいわけではありません。迅速な対応が必要なことがあるのです。一日でターミナルケアの体制を作って訪問診療に移行するということが求められます。これからしばらく毎晩枕元にスマホを置いて寝ることになりますが、それは致し方ありません。私の本職ですので。


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