「生活習慣病というのはもうやめようーその1。高血圧」

2023/07/12

生活習慣病という言葉は聞いたことがありますよね。なんとなく「生活習慣によって引き起こされる、色々将来に悪いことが起きる病気」というイメージでしょう。それでだいたい当たっています。


三大生活習慣病は、高血圧、糖尿病、高脂血症(高コレステロール血症)です。ぶっちゃけ簡単に言ってしまうと、この三つはどれも「動脈硬化に繋がる」という共通の性質を持っています。動脈が硬くなると脆くなって破れやすくなり、また血管の壁が厚くなる一方血管は狭くなり、血管の壁はでこぼこしてきますので血液が渦を巻いて血栓、つまり血の塊が出来たりします。そうすると血管が詰まったり血栓が脳の血管を塞いだりします。つまり脳卒中や心筋梗塞などが増えるというわけです。だからこの三つを治療しましょうという話になっています。


昔はこういうのは「成人病」と言われていました。40代頃から歳と共に増えてきますのでそう言われたのです。それを「生活習慣病」と言い換えたのは日野原重明と言う人です。日野原さんは晩年聖人君子のように祭り上げられ、特に看護業界では伝説の人になっていますのであの人の悪口を書くと看護師が怒るのですが、実はいろいろ裏表がある人です。ってか裏表がない人なんていないか。


それで彼は成人病と言われているものは実は生活習慣が深く関係していて、生活習慣を改めれば減るのだという考え方の元に「生活習慣病」という言い方を広め、それに厚労省が飛びついて「生活習慣病」が定着したのですが・・・。
実はあんまりそうでもないのです。この「常識」は最近の内科学ではどんどん覆されています。


まず高血圧。塩分を控えましょうと言います。塩分を取り過ぎると血圧が上がるのは大昔から分かっており、事実です。しかし食事中の塩分がめっちゃくちゃ高く、超しょっぱいものを食っていてそれで脳卒中が多かったというのは、かなり昔の日本の話です。高血圧になる人の約9割は「本態性高血圧」です。「本態性」というのは「なんだか原因がよく分からない」というのを医者が偉そうに言い換える言葉です。本態性高血圧の原因は、まさに「よく分からない」のです。よく分からないのですが、ともかく歳を取るとともに増えるのは事実です。高血圧と一番相関するものは「年齢」です。「歳と共に増える」のです。もちろん歳を取っても血圧が上がらない人もいます。上がる人と上がらない人は何が違うかと言っても、正直よく分かっていません。分からないから本態性なのです。


いくら分からないと言っても、臨床をやっていて目の当たり明らかな要因はあります。ストレスです。ストレス掛かれば血圧上がるのは常識だし、これは本当のことです。そして人生はほとんど全てストレスです。人生からストレスを除くと、残るものは多分極めて少ないでしょう。だから普通に生活して仕事をしている限り、ストレスはかかり続けていますので、血圧は上がっていきます。


この事実は医者にとっては非常に身近な証明があります。入院患者は血圧が下がるのです。え?入院ってめちゃくちゃストレスじゃ無いの?ある意味ではそうです。しかし別の意味では入院生活はストレスフリーです。というのはですね。


入院生活というのは、簡単に言うと極めて不自由な生活です。食べられるのは病院食、着るものは病衣で、全て病院から格安で提供されますが、好き勝手にものを食べたり、あれを着たりこれを着たりっていうのは出来ません。全て病院にお任せで、自分が判断することはほとんど無いのが入院生活です。何より、仕事から(一応)切り離されます。まあ最近は皆さんスマホを持って入院していて、そうするとラインやメールで入院中も仕事が追いかけてきますが、少なくとも普通に生活している状態よりは確実に仕事は減ります。そうすると、血圧は下がるのです。


いやいや、入院患者で血圧が高い人は高血圧食を出されるからだろうって、多分それはあまり関係ありません。老人病院のように長く入院する時は別ですが、一週間とか二週間だけ入院しても血圧は下がります。あれは病院食のせいではないです。「自分でものを決めなくて良い生活」って、ストレスフリーなんです。少なくともほとんどの日本人にとっては。だから高血圧の人が何かで入院すると10や20は平気で血圧が下がります。主治医は慌てて降圧剤を減らさなければならなくなります。しかし退院すると元に戻ります。この現象は、ほぼほぼストレスで説明出来ます。不自由な生活はストレスが減るという事は、つまり自由な生活はストレスが多いってことです。自由ってストレスなんですね・・・。


ストレスも生活習慣から来るのだから生活習慣病で良いじゃ無いかと言われれば、それは一応もっともです。ですが先ほども書いた通り、人生からストレスをさっ引くと後にはほとんど残るものがありません。生きるってほぼほぼストレスです。血圧が高いからと言って塩分を控えましょうとかやると、それ自体ストレスになります。生きるという事はストレスなんですから、ストレスを無くすというのはまあ、無理です。無理なことをやろうとするとさらにストレスが増えます。
要するに高血圧の9割は「本態性」で原因がよく分からないけれど、一番関係しているのは年齢で、しかもストレスが絡んでいるのは間違いなく、かつ人生はストレスであるという事になれば、高血圧は生活習慣病である、と言うのはあまり意味が無いです。出家して悟りでも開けば別なのかも知れませんが、私を含めてほとんどの人はそう言う事は無縁ですので、「生活習慣を改めて血圧を下げる」というのは諦めた方が良いです。そんなことを頑張ると、それ自体がストレスを増やすだけです。


と言うわけで、高血圧は生活習慣を改めれば改善するというのはあまり当てにならない話です。歳と共に血圧が上がって本態性高血圧ですと診断されたら、おとなしく薬飲みましょう。そういう諦めがおそらく一番ストレスを減らしてくれますから。


本当は高血圧、糖尿病、高コレステロール血症の三つを話したかったのですが、血圧だけで話が長くなりました。後の二つはまた次の機会に。


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