聞こえのいい建前の裏の本音(気が重い話です)

2023/10/04

今日、ある障害を持つ方のご家族から当院受診のご依頼がありましたがお断りせざるを得ませんでした。

 

「障がい者も認知症の高齢者も精神疾患患者もなるべく在宅で、地域で」というスローガンは聞こえがいいですが、それではそういう人が家で暮らせ、地域で生活できるような社会の仕組みがあるんですか、と思います。私は老年内科として認知症も見ているし、仙台西多賀病院で重症心身障害者病棟の主治医も3年やったし、名取熊の堂病院という精神病院の副院長もしましたが、その中でどうにかこうにか在宅の仕組みが整えられているのは認知症高齢者だけです。それもかなり不十分ですが。

精神疾患の方や重度心身障害、発達障害の方が家で暮らそうとしたら、結局家族にものすごい負担がかかります。お金の問題はもちろんですが、障がい者病棟や精神病院はそういう人を1箇所に集め、そこに様々な専門家を取り揃えているからこそそういう人を見ていけるのです。ああいう人たちが家庭や地域で暮らしていけるだけの仕組みなんか、何もないじゃないですか。

実際そういう人を知らずに理想論を振り回すのは正直やめてくれ、と思います。単に親切にするとか理解を示すとかいう話じゃないんですから、ああいう人に対応するということは。ご家族も最初はどうにかして家で見たいとおっしゃいますが、結局ご家族も年をとります。そうすると、どうすることもできなくなるんです。私はそういう現実を見てきているので、「社会投資もせず、何も仕組みも作らずに理想論を振り回すのは、結局国や自治体がそういう人にお金をかけたくないだけだろ」と思っています。「住みなれた家で」という裏には「家族に押し付けてて仕舞えばいい」という本音が隠されているように思えます。

理想論って、裏があるんです。


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