漢方はきちんと診断して処方するものです

2023/10/14

治療って、まず診断して、薬を出すのならその薬の効果と副作用を考えて、こういう診断ならこの薬を出そう、と考えます。それって当たり前の話で、どこの医者もそうやってるはずですが、なぜか漢方薬だけは診断できなくても患者に出せると思い込まれている節があります。

 

 

ある中年女性が、下痢が止まらないと言って受診してきました。胃腸科で検査されて異常はなく、いわゆる「過敏性腸症候群」だろうと言われ、ツムラの「桂枝加芍薬湯(ケイシカシャクヤクトウ)を出されたが良くならないというのです。もちろん普通の下痢止めも出されています。

 

 

私はその人を漢方のやり方で診察し、「脾腎両虚、脾の裏寒」と診断しました。これは漢方の診断です。そして患者さんに、「あなたの下痢は桂枝加芍薬湯で治ります。ただし一つだけ生薬が足りないのです」と言い、桂枝加芍薬湯にアコニンサン錠というものを合わせて飲んでもらいました。1週間分しか出しませんでしたが、その人は翌週外来に来て、「おかげさまで下痢はすっかり止まりました」というわけです。

 

 

脾だけが虚していれば桂枝加芍薬湯で良いのですが、脾腎両虚となるとアコニンサン錠、つまり附子を加工したものを足さなければなりません。

 

 

漢方医学というのは私が医学部の学生だった頃は「医学ではない」とみなされて一切教えられませんでした。今は医学部でほんの数時間漢方の授業がありますが、6年間のうち数時間ですから、それで漢方医学が理解できるはずがありません。ところが今9割以上の医者が漢方薬を処方しています。西洋薬なら西洋医学を1からきちんと順を追って学び、診断学を身につけ、さらに薬理学、つまり薬についての知識も身につけて初めて患者に薬が出せるというのは医者なら皆当然そう考えているはずなのに、漢方薬は漢方医学を知らず、したがって診断もつけられず、一つ一つの漢方薬についての知識も全くないのに患者に処方できると医者が考えているというのは、どうも不思議でなりません。そんなことって、できるわけないのです。

 

 

漢方医学を知らず、漢方薬の知識もないまま漢方薬を出すと、もちろん効かないのですが、効かないだけでなくとんでもない副作用を起こすことがあります。

 

 

ある高齢女性は血圧が高く、普通の降圧剤でどうしても下がらないので漢方でどうにかならないかと言って受診されました。前の医者の処方を見ると、葛根湯が一日3回毎日30日分、それがずっと出されています。それで、あなたの血圧が下がらないのはこの葛根湯のせいだから、すぐやめなさいと言いました。その人は慢性の肩こりで葛根湯が出ていたのですが、私は漢方の診断をして、この人は漢方でいう「血於」であると診断し、疎経活血湯を飲んでもらいました。次に受診された時、患者さんの血圧は正常化していました。葛根湯には麻黄という生薬が入っていて、麻黄にはエフェドリンという成分が含まれていますから、葛根湯を毎日毎日朝昼晩飲み続けたら血圧は上がります。そればかりでなく、高齢者なら幻覚を起こすことだってあり得ます。あれは風邪の初期に1日か2日さっと飲むものであって、毎日ずっと飲んじゃダメなんです。

 

 

診断学も薬理学も知らないのに患者に薬が出せるなんて、あり得ないです。漢方医学を学んだこともなく、葛根湯に麻黄という生薬が含まれているという基礎的な知識もない医者が出す漢方を飲んじゃダメです。危ないんだから、そういうのは。


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