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  • 投稿日時:2023/11/07

    ダイエットしたいあなたに朗報です。香港から「太極拳はエアロビをするのと同じかそれ以上のダイエット効果がある」という論文がAnnals of Internal Medicineという有名な内科専門誌に出ました

    論文では50歳以上の中心性肥満(腹太り)の人543人を
    1。何もしない群
    2。太極拳をする群
    3。エアロビなどの運動をする群

    にわけ3年間観察したそうです(息の長い研究)。そうしたら、太極拳はエアロビや普通の運動を組み合わせたグループと同じかそれ以上に腹囲が減り、体重も減ったそうです。まあ減ったと言っても何もしない郡に比べて太極拳群では1.8cm減り、エアロビ群での減少は1.3cm(いずれも平均値)ですから「目に見えて痩せた」ってわけではないですが、50歳過ぎの人たちって「目に見えて痩せる」というのはあまり良くないです。こうやって運動しながら「ほどほどに痩せる」のがいいんです。

    当院は漢方内科をやっていますが、よく「痩せる漢方はないですか」というお問合せがあるのですが、そういう方には「薬で痩せようという人で痩せた人はいません」とかなりクールにお答えします。実はある種の糖尿病の薬を飲むと痩せるというので一部のろくでなしの医者が自由診療のオンラインで自費で糖尿病の薬を売ってますが、糖尿病でない人が糖尿病の薬を飲むなんてのは危険この上ない話で、あんな連中は医師免許なんか取り上げたらいいんです。

     

    で、太極拳ですが、あれちょっと見ているとゆっくりして簡単そうに見えるでしょう。実はやってみるとなかなかコツを掴むのが大変です。以前高齢者の転倒予防にあれがいいんじゃないかと思い、太極拳の名人に「塗膜簡単な基本動作」を教えてもらったことがあるんですが、なかなかコツが掴めず四苦八苦しました。慣れてしまえばそうでもないのでしょうが、「一番簡単な動作」を覚えるのに30分以上かかり、かなり汗ばみました。あれずっと続けたら、確かにいい運動にはなるはずです。実際痩せたというのもうなづけます。

     

    もっともその太極拳の名人によると、「太極拳の名人ってみんな痩せてないよ」だそうです。お姿を画像で拝見しましたが、確かに名人って皆さん「固太り」な体型をしている方が多いようです。つまり筋肉や骨がしっかりしている上に適度に脂がついている体型です。でもあれって高齢者にとっては良い体型です。単なるブヨブヨはダメなんですけど、筋肉や骨格の基本がしっかりしている上にある程度「もしもの時の予備エネエルギー」として脂が乗っているというのは、高齢者の体型としては非常に良い、とも言えます。

     

    というわけで、皆さんもどうですか、太極拳。

  • 投稿日時:2023/11/06
    あゆみ野クリニックには心療内科と漢方内科があります。実は漢方内科とは名乗っているのですが、私が一番しっかり勉強したのは中医学です。中医学というのは中国の色々な伝統医学の流派の巨頭を中国政府が南京に集め、何日も侃々諤々(かんかんがくがく)議論させて雑多だった中国の伝統医学をどうにか体系化したものです。

    何故中国政府がこんなことをやったのかというと、今の中華人民共和国が出来た時医者が圧倒的に不足していた。西洋医は元々少なかったのですが、その上医者みたいなインテリは共産党支配を嫌って逃げちゃったんです。それで、西洋医だけで民衆を診療するのは到底無理だから、伝統医学の力も借りよう。しかし伝統医学はあまりに雑多で、これでは系統的に学校で教えて伝統医学の医者を教育するということが出来ない。だから大学の教育手順に載るように、どうにかして中国伝統医学を体系化しようということでした。

    みんな一言居士の筈の伝統医学の大家を集めてどう意見を集約したものか分かりませんが、ともかく体系化したんです。
    基本に据えられたのは黄帝内経(こうていだいけい)です。いろんな流派がいろんなことを言うのですが、何か土台になるテキストが無いと話が纏まりません。それで、どの流派も納得出来るたたき台として黄帝内経が選ばれました。
    黄帝内経は中国の戦国時代、色々な人が書いた医学論文を漢代に纏めたものです。元々色々な人が書いたものを集めているんですから、突っ込むと結構矛盾が出ます。

    しかし今に伝わる黄帝内経の内容は、おそらく漢代に纏められたものではないはずです。漢代の書(と言うかあの時代はまだ木簡とか竹簡)なんか、あっという間に散逸してしまいます。それで、宋政府が纏め直したのです。
    宋という国は何回か書きましたが、軍事的にはあんまり強くありませんでした。北の遼や金にやられてばかりいました。しかし文明大国だったのです。医学領域でも、たくさんの散逸した古典をどこからとも知れず探し出してきて復刻したのです。

    復刻したと書きましたが、何しろ散逸してしまっているのです。あっちこっちに断片は残っていましたが、それを繋いだところで元の本が出来る状態では無かったでしょう。要するに私が何を言いたいかというと、結局宋は古典を復刻したと言っていますが、実際は新しく宋代の医学を作ったんです。名前は古代のいかめしい本の名前そのままですが、内容は一新したはずです。

    それで、実はここまでが前振りで、ここから本題です。

    中医学では五臓六腑という概念があります。五臓というのは心肝脾肺腎ですが、西洋医学の同じ名前の臓器とは意味が大きく違います。今日私がここで書きたいのは心と肝と脾です。

    心は血を循環させると言います。それだったら西洋医学の心臓と同じです。しかし同時に心は意識覚醒を掌るというのです。さらに、意識が覚醒していればこそ出来る認知判断も掌るとなっています。
    昔の中国人も何回か解剖をしていますが、どうも脳がよく分からなかったらしいのです。脳は奇恒の腑の一つとされ、さっぱり分からない説明が付いています。元々脳が何してるんだかさっぱり分からなかった人がこじつけた説明なので、あれは重要では無いです。

    それで、心は意識覚醒と認知判断をやると書きましたが、心がやる認知判断は割と浅いというか、単純なのです。日常的なあれこれを認知判断します。それに対し、脾は思惟を掌るというのです。思惟というのは、心がやる日常的な認知判断より深い思考や思いです。深く人生を考えるとか、自分のクリニックをどう経営していったら良いだろうとか言う、難しくて複雑な思考が思惟です。これを脾臓がやってるというのです。

    脾臓の基本的な仕事は実は消化吸収です。口から肛門までの胃とか腸で行われる消化吸収機能を全体としてコントロールするのが脾なんです。消化吸収機能と深い思考は関係するというのは面白い視点です。要するに腹が減ったって目が覚めてれば日常的な簡単な判断は出来ますが、腹が減った状態で人生や経営は考えられないというわけです。

    肝というのはですね、私が書いた「高齢者のための漢方診療」には「感情と自律神経系の中枢」と書きましたが、中医学の流れの中できちんと説明すると五臓六腑全体が上手く廻るように調節する働きです。その「調節する」の意味を取って「自律神経系」と説明したのですが、本当は自律神経だけでは無いです。

    五臓六腑の調子が狂う最大の要因はストレスです。ストレスが掛かるとそのストレスで五臓六腑の調子が狂わないように、肝が頑張ります。ところがそれでもストレスが掛かり続けると、肝が参ってしまいます。肝の調節機能が失われた状態が肝鬱(かんうつ)です。肝鬱になると五臓全体の調子が狂います。心臓はイライラしたり、逆に意識覚醒が鈍ってどよんとしたりします。意識覚醒の調節が利きないのですから不眠にもなります。

    脾臓も上手く働きません。ストレスが掛かると必ず食欲が狂います。たいていの人は食欲が落ちますが、中には過食になる人もいます。そしてそういう状態では、脾が深く思惟を巡らせるなんてことは出来ません。
    肝鬱の代表役の一つが抑肝散です。ストレスが掛かりすぎて肝の調整機能が落ちたのを回復させるというのです。何故「抑」かというと、肝鬱になると感情が暴走するからです。イライラカッカします。だから肝鬱を抑制させる、抑肝散というのです。

    帰脾湯(きひとう)というのもよく使います。帰脾湯というのはまさに脾に働きます。ストレスが掛かり、肝の調整機能が失われ、その結果脾臓の消化吸収機能も乱れ、ものをしっかり深く考え、判断することが出来ない状態を回復させるというのです。もっとも私はその帰脾湯をベースにした加味帰脾湯(かみきひとう)の方をよく使います。加味帰脾湯は帰脾湯にイライラカッカを静める柴胡(さいこ)、山梔子(さんしし)という二つの生薬を足しています。つまり傷ついた脾臓を優しく癒やしてくれる帰脾湯に、イライラを静める生薬を二つ足してるんです。これって、ストレスを山のように抱えてどうにもならなくなってやってくる心療内科の患者さんにぴったりです。

    面白いことに、石巻で当院より古く昔から心療内科をおやりになっている「いとう心療クリニック」の伊藤先生もよく帰脾湯や加味帰脾湯を出されます。たまたま伊藤先生の所から当院に移ってこられる方とか、以前伊藤先生に掛かっていて調子が良くなったので通わなくなったけれども、最近また調子が悪くなったが伊藤先生の予約は一杯でなかなか取れないと言って当院に来られる方のお薬手帳を見ると、伊藤先生はよく帰脾湯や加味帰脾湯を出されています。

    私は伊藤先生にまだ面識がないのですが、心療内科では伊藤先生の方がずっとご専門です。伊藤先生は心療内科をやる中で漢方を覚えられたのだろうと思います(推測)。私は逆に、漢方や中医学をやる中で、漢方内科に見える患者さんに圧倒的に心身症の方が多いので心療内科もやるようになりました。伊藤先生と私が別に相談したわけでも無いのにどちらも好んで使う処方が帰脾湯や加味帰脾湯。面白いものです。

    というわけで、あゆみ野クリニックには漢方内科と心療内科があると言いますが、この二つは要するにほとんどごちゃごちゃで一緒なんです。
  • 投稿日時:2023/10/31

    採血したけど結果を患者さんが聞きに来ないまま溜まっている検査結果がこんなにありますと渡され、おったまげました。数は数えてないけど、ざっと百数十枚ある。びっくりして昼休みに一枚一枚見て行ったんです。

     

     

    まず発熱外来関係のものがおおよそ50枚。これは問題ないです。発熱外来やっていると時々コロナやインフルエンザではない炎症の人が混じってきます。肺炎とか腎盂腎炎とか。こういう人は治療に急を要するから、検査結果は至急ファックスとか検査会社からの直接オンラインで見て患者さんに話しているので、正式な報告書が後から来ただけなので、もういらないものです。

     

     

    50枚くらい、異常値が出ているのに患者さんが結果を聞きに来ていないというものがあって、これは明日から時間を見て順々にカルテと照らし合わせてどういう人でなぜその検査をしてその後どうなっているのか本人に確認しようと思います。

     

     

    残り数十枚が主に血圧の初診でした。

     

    4、50代以下の人が健診などで高血圧を指摘され、初診で来たときは、まず血圧手帳を渡します。朝晩の血圧を家で測って、7日分ぐらいつけてきてくださいと言います。一方でそのぐらいまでの年代で初めて高血圧で受診したという人には、色々な検査が必要になります。

     

     

    「血圧が高い」という人の9割は「本態性高血圧」、つまり年齢とともにだんだん血圧が上がるので、私もその一人なんでですが降圧剤で治療します。しかし1割はなんらかのホルモン異常があるのです。甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモン、腎臓のホルモンなどの異常で血圧が上がっている人が約1割います。ですから初めて「血圧が高い」と言って受診した人は、必ずこれらのホルモンの採血が必要です。1割って、そんなに稀じゃないですから。

     

     

    しかしどうもスタッフによると「血圧が高いと言われてきただけなのにこんなにたくさん検査された」と窓口のお会計で不満を漏らす方がかなりいるんだそうです。もちろん採血する時はなぜそういう項目を採血するのか説明しているのですが、結局会計の時になって「高い」という話になるようです。

     

     

    初診で今まで治療を受けていない血圧患者についてそうしたホルモン関係の採血をするというのは、どこの町医者でも知っています。だって初期研修医のマニュアル本に書いてある程度の知識ですから。でも患者さんからすると、「ただ健診で血圧のことを言われたからきただけなのになんでこんなたくさん検査してこんなに金取るんだ」って話になるようです。

     

     

    邪推かもしれませんが、同じ検査を市立病院や日赤がやっても、多分文句は出ないんでしょう。健診で言われてうるさいから町医者にかかっただけなのに、ぼったくりやがった、ということじゃないかと思います。

     

     

    確かに、「血圧が高い」と言ってきた患者に黙ってポンと降圧剤を出す医者って、います。でもそれって、実は患者が医者に舐められている、あるいは匙を投げられてるんです。おそらくそういう先生は、今回私が気が付いたようなことを散々経験したんでしょう。そして「どうせこういう検査すると患者来なくなるから」と言って検査しなくなったんだと思います。一回検査して入るお金より、ともかく患者捕まえてずっと通ってくれた方が、経営上は得ですから。

     

     

    どうするか考えて、これからはいくつか検査コースを作って料金メニューを出そうか、という話を今しています。全体としてこれだけ検査が必要ですが、今日一回にやるとおいくら、これとこれの2回に分けるとそれぞれおいくらみたいな。でも「検査は困る、薬だけくれ」というのは当院としては無理です。だってそういう人に限って後から「甲状腺機能亢進症だった」となったときに、ころっと態度変えるんですから。
     

  • 投稿日時:2023/10/27

    あゆみ野クリニックには老年内科があります。石巻周辺で老年内科を標榜しているのは多分当院だけです。高齢者、特に後期高齢者ってのは色々成人の治療とは治療の目標とか使うべき薬とかが違いまして、40代50代を治療する感覚で80歳90歳を治療しちゃいけないんです。

     

     

    ただまあそれは置いといて、老年内科ですから当然認知症も診ています。「うちの親が最近どうもおかしい」と言ってご家族が連れてこられます。ただ、そう言う方を診察していつも内心ため息をついてしまうのは、そうして「物忘れが気になる」と言って連れてこられた時点で、ほとんどの方は認知症検査をするとすでにかなり進行した認知症なのです。相当程度進行してからでないとご家族も本人を病院に連れてくるのが難しいのでしょうが、この段階で認知症治療薬などはもう適応にならなくなっています。結局治療より介護保険のレールに乗せて要介護申請してケアマネ決めてもらって、って話になるわけです。もちろんそう言うレールに乗せるのも老年内科のお仕事なんですが。

     

     

    この冬新しくアルツハイマー病の薬が発売されます。レカネマブ(商品名レケンビ)ですが、期待の新薬と噂された割に蓋を開けてみるとバカ高い割に効果は大したことがなくてがっかりしてます。しかしそう言う薬をもし使いたいと思っても、もっとずっと早期のアルツハイマーか、「軽度認知障害」と言って認知症レベルまで落ちてしまう前に使わないと効果が出ません。

     

     

    それでですね。ご家庭でできる簡単な認知症チェック方法をご披露したいと思います。

     

    まず、「りんご、鳩、電車」と言って「くりかえしてください」と言います。これはほぼ全員言えます。ここで一つでも出てこなければ当院に受診してください。「この三つは後で聞きますよ、覚えておいてくださいね」と言ってから、次の暗算をやってもらいます。

     

    100から7を順番に5回引いてもらうのです。つまり、93、86、79、72、65ですが、全部暗算できる人はむしろ稀です。79ぐらいまでできたら充分。もし79まで辿り着けなかったら受診させてください。

     

    さて、計算が終わった後「ではさっきの三つの言葉は何でしたか」と聞きます。正常なら二つは答えられます。二つ答えられなかったら受診させてください。

     

     

    まあざっとこんなところです。本当は本人が物忘れを心配して来院していただくのが一番なのですが、ご本人はなかなか自分で来ようとはしないんです。ご家族で心配な方がいたらやってみてください。


    https://www.ayumino-clinic.com/

  • 投稿日時:2023/10/14

    治療って、まず診断して、薬を出すのならその薬の効果と副作用を考えて、こういう診断ならこの薬を出そう、と考えます。それって当たり前の話で、どこの医者もそうやってるはずですが、なぜか漢方薬だけは診断できなくても患者に出せると思い込まれている節があります。

     

     

    ある中年女性が、下痢が止まらないと言って受診してきました。胃腸科で検査されて異常はなく、いわゆる「過敏性腸症候群」だろうと言われ、ツムラの「桂枝加芍薬湯(ケイシカシャクヤクトウ)を出されたが良くならないというのです。もちろん普通の下痢止めも出されています。

     

     

    私はその人を漢方のやり方で診察し、「脾腎両虚、脾の裏寒」と診断しました。これは漢方の診断です。そして患者さんに、「あなたの下痢は桂枝加芍薬湯で治ります。ただし一つだけ生薬が足りないのです」と言い、桂枝加芍薬湯にアコニンサン錠というものを合わせて飲んでもらいました。1週間分しか出しませんでしたが、その人は翌週外来に来て、「おかげさまで下痢はすっかり止まりました」というわけです。

     

     

    脾だけが虚していれば桂枝加芍薬湯で良いのですが、脾腎両虚となるとアコニンサン錠、つまり附子を加工したものを足さなければなりません。

     

     

    漢方医学というのは私が医学部の学生だった頃は「医学ではない」とみなされて一切教えられませんでした。今は医学部でほんの数時間漢方の授業がありますが、6年間のうち数時間ですから、それで漢方医学が理解できるはずがありません。ところが今9割以上の医者が漢方薬を処方しています。西洋薬なら西洋医学を1からきちんと順を追って学び、診断学を身につけ、さらに薬理学、つまり薬についての知識も身につけて初めて患者に薬が出せるというのは医者なら皆当然そう考えているはずなのに、漢方薬は漢方医学を知らず、したがって診断もつけられず、一つ一つの漢方薬についての知識も全くないのに患者に処方できると医者が考えているというのは、どうも不思議でなりません。そんなことって、できるわけないのです。

     

     

    漢方医学を知らず、漢方薬の知識もないまま漢方薬を出すと、もちろん効かないのですが、効かないだけでなくとんでもない副作用を起こすことがあります。

     

     

    ある高齢女性は血圧が高く、普通の降圧剤でどうしても下がらないので漢方でどうにかならないかと言って受診されました。前の医者の処方を見ると、葛根湯が一日3回毎日30日分、それがずっと出されています。それで、あなたの血圧が下がらないのはこの葛根湯のせいだから、すぐやめなさいと言いました。その人は慢性の肩こりで葛根湯が出ていたのですが、私は漢方の診断をして、この人は漢方でいう「血於」であると診断し、疎経活血湯を飲んでもらいました。次に受診された時、患者さんの血圧は正常化していました。葛根湯には麻黄という生薬が入っていて、麻黄にはエフェドリンという成分が含まれていますから、葛根湯を毎日毎日朝昼晩飲み続けたら血圧は上がります。そればかりでなく、高齢者なら幻覚を起こすことだってあり得ます。あれは風邪の初期に1日か2日さっと飲むものであって、毎日ずっと飲んじゃダメなんです。

     

     

    診断学も薬理学も知らないのに患者に薬が出せるなんて、あり得ないです。漢方医学を学んだこともなく、葛根湯に麻黄という生薬が含まれているという基礎的な知識もない医者が出す漢方を飲んじゃダメです。危ないんだから、そういうのは。

  • 投稿日時:2023/10/13

    患者さんから許可をいただいたのでプライバシーを伏せて紹介します。


    30代男性、既往歴なし、建設現場作業に従事する人。

    9月8日当院でコロナと診断。発熱など急性期症状の後息苦しさ、食欲不振、痰が絡むという症状が続いた。汁物とカップラーメンぐらいしか食べられず、仕事で高所作業をすると足がふらついた。9月20日これらの症状で当院受診。息苦しさ訴えるも動脈酸素飽和濃度正常、レントゲンで異常なし。中国伝統医学(中医学)で脾虚痰飲(ひきょたんいん)と弁証し補中益気湯と二陳湯を処方したところ、本日(10月13日)来院、すべての症状は消失し、職場復帰したと本人から報告があった。

    実は私もコロナ後遺症と考えられる後鼻漏で悩んでいますが、当院でコロナ後遺症が完治したのはこの方が2例目です。1例目は6ヶ月以上続く激しい空咳で、煎じ薬で五虎湯に麦門冬30gを加えて一回で治りました。しかし残念ながら全く治せない方もかなりおられます、というより私自身の後鼻漏が全然治らないんですけど。


    今の所コロナ後遺症はこうして一例一例を積み重ねていくしかない状況です。

  • 投稿日時:2023/10/06

    これは石巻市内及びその周辺で実際に行われている診療なので、思い当たる人は「ギクっ」としていただければいいのです。風邪にグレースビッドとかメイアクトなどの抗生物質を出している医療機関があります。ある医療機関ではどうやら約束処方に入れているらしく、そこがかかりつけの患者さんのお薬手帳を見せてもらったら風邪を引くたびに毎回グレースビッドが出ていました。


    風邪というものはウィルスによる疾患であって細菌ではないのから抗生物質は不要だという理解が一般にも広まったのはコロナの皮肉な効用です。しかし患者が知識を獲得したのに医者の方があいも変わらず風邪に抗生物質を出していたのでは、話になりません。


    風邪に抗生物質を出す医療機関がどんな抗生物質を出しているかを見ると、苦笑いを通り越してゾッとすることがあります。


    セフゾン、メイアクト、セフスパン、トミロン、バナン、フロモックスは苦笑い系です。これらはまとめて「第三世代セフェム」と呼ばれるグループの抗生物質ですが、このグループの抗生物質は口から飲んでも吸収されません。ほとんどうんこになって出て行きます。どうせ吸収されないから副作用もないかというと、吸収されなくても腸管細菌叢は壊します。だから下痢はするんです。風邪はウィルス性疾患ですから抗生物質は一切不要なんですが、下痢は起きます。苦笑いするしかない系統です。


    もっとも第三世代セフェムの注射剤である「セフトリアキソン(ロセフィン)」は大事な薬です。腎盂腎炎をクリニックで治療するときはこの注射を約1週間1日一回注射します。外来で朝夕2回通ってもらうのは無理なので、「1日一回」というのは重宝します。飲み薬は無意味ですが注射は大事、というのが「第三世代セフェム」です。


    苦笑いを通り越し背筋が寒くなるのがクラビット、グレースビッドなど「ニューキノロン」系の抗生物質です。ニューキノロン系の抗生物質は、めちゃくちゃ色々な微生物をやっつけます。「皆殺し」系です。しかし「何でも効くんならいいじゃないか」では無いです。いくら色々なものをやっつけるといっても要するに抗生物質ですから、ウィルスには効果がありません。風邪に出すのは無意味です。しかしそれで私の背筋が寒くなるわけでは無いのです。


    クラビットやグレースビッドは結核菌にも効くのです。これがまずいのです。なぜならこれらの薬は結核菌を若干弱らせますが、完全に叩くわけじゃありません。中途半端に効くのです。最近日本では高齢者を中心に結核が増加傾向にあります。発熱、咳などを呈する患者に「風邪」と誤診してクラビットやグレースビッドを出すと、それが本当は結核であったとしても中途半端に良くなります。よくなった、治ったと勘違いしたら大変です。完全に治す力はないからです。要するにこういう抗生物質を風邪に出していると、結核を見逃します。

     

    またこれらニューキノロンはやたら色々な細菌に効きますので、こういう治療を繰り返していると「多剤耐性菌」が出てきます。細菌が突然変異を繰り返して抗生物質が効かない菌になるのです。ニューキノロンがたくさんの細菌に効くだけに、ニューキノロンによる多剤耐性菌は無敵の菌になります。どんな抗生剤もへっちゃらだぜ、という細菌ができるのです。ニューキノロンは抗生物質の専門家でない限り、使うべきではありません。


    先日当院で肺炎と診断し、「軽症ですから入院ベッドがなければ当院で診ますよ」」と紹介状に書いて日赤に送った患者さん、ご家族に「どうなりました」と電話したら「抗生物質を出されて返されました」とのことです。サワシリンかアモキシシリンのどちらかとオーグメンチンが出ましたね、と言ったら「その通りです」というので、「ではそれで結構です。1週間後に来てください」、と言いました。普通に社会で暮らしている方がかかる肺炎はほとんど肺炎双球菌によるものなので、この二つのペニシリンで良いのです。なぜペニシリンを二種類合わせるかというのは専門的な話なので省略します。膀胱炎ならケフレックスかバクタです。膀胱炎は大腸菌と相場が決まっていますから。


    風邪に闇雲にグレースビッド出しても医者は儲かるし、こうしてきちんと使い分けても一文にもならないのですが、本音を言うとこう言う「まともな診療」を医療報酬で評価してくれたらいいのに、とは思います。 

  • 投稿日時:2023/10/04

    今日、ある障害を持つ方のご家族から当院受診のご依頼がありましたがお断りせざるを得ませんでした。

     

    「障がい者も認知症の高齢者も精神疾患患者もなるべく在宅で、地域で」というスローガンは聞こえがいいですが、それではそういう人が家で暮らせ、地域で生活できるような社会の仕組みがあるんですか、と思います。私は老年内科として認知症も見ているし、仙台西多賀病院で重症心身障害者病棟の主治医も3年やったし、名取熊の堂病院という精神病院の副院長もしましたが、その中でどうにかこうにか在宅の仕組みが整えられているのは認知症高齢者だけです。それもかなり不十分ですが。

    精神疾患の方や重度心身障害、発達障害の方が家で暮らそうとしたら、結局家族にものすごい負担がかかります。お金の問題はもちろんですが、障がい者病棟や精神病院はそういう人を1箇所に集め、そこに様々な専門家を取り揃えているからこそそういう人を見ていけるのです。ああいう人たちが家庭や地域で暮らしていけるだけの仕組みなんか、何もないじゃないですか。

    実際そういう人を知らずに理想論を振り回すのは正直やめてくれ、と思います。単に親切にするとか理解を示すとかいう話じゃないんですから、ああいう人に対応するということは。ご家族も最初はどうにかして家で見たいとおっしゃいますが、結局ご家族も年をとります。そうすると、どうすることもできなくなるんです。私はそういう現実を見てきているので、「社会投資もせず、何も仕組みも作らずに理想論を振り回すのは、結局国や自治体がそういう人にお金をかけたくないだけだろ」と思っています。「住みなれた家で」という裏には「家族に押し付けてて仕舞えばいい」という本音が隠されているように思えます。

    理想論って、裏があるんです。

  • 投稿日時:2023/10/02

    元気がない、怠い、感染症を起こしやすいなどという症状は、第一には気虚を考えます。勿論良く診察しないと、本当は気虚だけじゃないんですが。


    気虚ってのはですね。元々中医学では身体の中に気、血(けつ)、津液(しんえき)という三つのものが循環していると言うんです。この辺は患者さんにもいつも説明しているレベルです。血というのは、面倒くさい議論を抜きにすれば血液と思って良いです。津液も、「そもそもこれはアーユールヴェーダから伝わったもので」とか言う得体の知れない話(私は好きなんですが)をすっ飛ばせば体液です。人間の身体の70%は水だという、そのことです。


    で、血とか津液は循環してるわけです。それは分かりますよね。血液循環というのは西洋医学でも当たり前。体液が上手く循環しなくなれば浮腫、胸水、腹水など病的な水の溜まりになります。血液の循環が悪いのを(ざっくり言えば)血瘀と言い、津液の循環が悪ければ湿とか水滞と言います(湿と水滞の違いなんかここではどうでも良いです)。


    しかし、血液も体液もそれそのものは物体ですから、勝手には巡りません。採血したら採血管の中で血液がぐるぐる踊るなんて事は無いです。だからなんらかのエネルギーがこれらを循環させているんです。そのエネルギーが「気」です。
    気の定義は「働きがあって姿形が無いもの」ですが、実はかなり日常的な概念です。天気、空気、元気、電気。こういうのは、まさに気、つまり働きはあるけど姿形はないのです。


    生体に於いては、気と言えば生体エネルギーという事になります。またエネルギーを介して行われる情報伝達、つまりsignalingも気です。その気のエネルギーが落ちてしまうと気虚、signalingが上手く行かないと気滞と言うんです。

     


    気虚の薬は補気薬で、代表は薬用人参と黄耆(おうぎ)です。では気虚の人にはこれをドカンと飲ませればいいかというと、気虚の人ってしばしば胃腸が弱いんです。すぐ下痢したり食べるとたちまち胃の具合が悪くなる。そういう人に人参ドカーン、黄耆ドカーンとやると、逆に胃腸が受け付けないんですね。人参はそもそも胃腸を丈夫にする薬の筈なんですが、大量にそれだけ入れると胃腸が参ってしまう。それで、白朮だ、山薬だ、茯苓だというような「柔らかい胃腸薬」を入れて、胃腸を補いながら人参や黄耆を足していくのが治療のこつなんです。


    六君子湯は人参、白朮、茯苓、甘草、半夏、陳皮、大棗、生姜から出来ています。つまり気虚だから人参を入れたいんだけど、人参だけドカーンと入れると胃腸が弱い人は受け付けないので、「その他諸々」を足しているのです。


    その他諸々で片付けると生薬が怒るかも知れません。白朮、茯苓、甘草、大棗、生姜はまさに胃腸薬です。胃腸薬として理解して良いです。ただし茯苓は「津液を巡らせる」という大事な働きを兼ねていますが。


    陳皮、半夏は理気薬です。これも胃腸を助けるのですが、気を上手く巡らせる働きがあると言います。気虚だから気を補うんだけれども、補った気を巡らせましょう、と言うことで陳皮、半夏を足しています。


    え?ツムラの手帳に蒼朮とあるって。そうなんです。ツムラは白朮を使わず蒼朮を入れています。蒼朮はホソバオケラ、白朮はオケラで、要するにオケラなんですが、一応別の植物です。蒼朮は津液を巡らせる力が強く、白朮は胃腸を助ける力が強いので、六君子湯では本来白朮を使うべきです。クラシエは白朮を使っています。原典の「医学正伝」にはちゃんと白朮とありますから、これはクラシエの白朮を使った六君子湯が正しいのです。なぜツムラは白朮を使わず蒼朮なのか、今のツムラのMRは誰も知りませんが、私は昔お年寄りの漢方医から「あれはツムラの顧問だった漢方医が白朮は臭いと言って嫌ったからだ」と聞きました。まあ又聞きなので真偽の程は分かりませんが、いずれにしろ六君子湯では白朮を使ったクラシエが正しい。


    ともかく、六君子湯は気虚の薬なので、人参を飲ませたいのです。しかし人参だけ入れると胃腸が弱い人は受け付けないので胃腸薬をあれこれ合わせ、そこに人参を入れて気を補い、補った気を陳皮と半夏で巡らせようというのが六君子湯です。

     

    うーん。なるべく噛み砕いて書いたんですが、伝わるかしら?

  • 投稿日時:2023/09/29
    ご高齢のご家族がおられる方に大切なお話です。

    80,90を過ぎて多少物忘れがあってもおうちでそれなりに元気に暮らしているお年寄りっています。でもご高齢になれば急に体調を崩す場合は良くあります。そういうとき、家族はもちろん慌ててしまいます。しかしその時、この話を思い出してください。

    80も半ばを過ぎた人が急に具合が悪くなる。家族は救急車を呼びます。しかし「救急車を呼ぶ」ということの意味をご存じの方は、実はそう多くないです。

    救急車を呼ぶというのは、救急病院に運んで救命しろという意味なのです。それがどうしたって?

    救命しろという事は、救急外来に搬送されて呼吸が怪しければその場で気管挿管(気管支に管を突っ込む)をされ、人工呼吸器に繋がれます。心臓の拍動が微弱なら心臓マッサージを受けます。肋骨が何本か折れますが、それぐらい強くやらないと心臓マッサージは意味をなしませんので、やります。

    運良くそれで命が長らえても、こういう非常にご高齢の方の場合、大抵それで寝たきり、植物状態になります。そういう人を救急病院は何時までも入院させておけないので2週間ぐらいで老人病院に移します。その時は自分で口からものを食べられる状態でないことがほとんどですから、鼻から栄養の管を入れられます。あるいは高濃度の点滴が出来るよう首に太い点滴が刺さった状態で老人病院に送られます。

    そういう鼻から管を入れられた状態、首に太い点滴が刺さっている状態は、意識がほとんど無い高齢者にとっても不快です。不快だから抜こうとします。抜かれると困るので両手を抑制されます。ソフトなやり方は自分では外せない手袋(ミトン)を付けさせられることですが、寝たきりのご老人でもミトンを上手に外してしまう方がいて、その場合は両手をベッド柵に布で縛り付けます。

    その時になって「それは止めてくれ」と言っても遅いのです。そういう状態になったらその人は口からものを食べることは出来ないと看做されますので、そういう人の栄養チューブを抜いたり太い点滴を外すと、医者は殺人罪に問われる可能性があるため、出来ません。何年もその状態で過ごし、何回も肺炎をくり返したあげく、家族が「もうこれ以上は良いです」と言うまでその状態で治療(拷問といった方が良いでしょうが)は続きます。

    認知症で始末に負えない高齢者を施設に預けることは良くあります。家ではとてもみられないお年寄りを施設に入れると「やれやれ」とほっとしますが、ほとんどのご家族は施設に入れる時確認するべき事があるのを知りません。

    「その施設は看取りをやってくれるのか」

    と言うことです。福祉施設と言っても色々ですが、看取りまでやってくれるところとやらないところがあります。ウチでは看取りはしません、と言うところは、そろそろかな、と思ったらその人を病院に送ります。死ぬのは病院で診てくれ、と言うわけです。しかし「もうそろそろ」と施設の職員が気がつかないままその人が息絶えてしまうことがあります。看護師が巡回したら呼吸が止まっていた、と言うようなケースです。看取りはしないという施設では、そういう時は救急車を呼びます。そうすると話は振り出しに戻るわけで、齢90にもなる高齢者が自然に息を引き取ったのに、気管挿管して心臓マッサージをして肋骨をポキポキ折ることになるわけです。

    80を超えた高齢者がいるお宅では、その人が万が一の時どうするか、よく考えて置いた方が良いです。特にその人に判断能力があれば、御本人の意見をしっかり聞いておきましょう。そしてかかりつけがあれば、かかりつけの先生に「いざというときの対応」を相談しておくと良いです。

    当院でも何人かそういう高齢者を診ていますが、そのご家族にはきちんとこういうお話をして、急変した時どうするか、あらかじめ相談します。高齢者は大抵夜中に急変するのですが、私は毎晩晩酌をしていますから、夜中車で駆けつけるという事は出来ません。その代わり、夜中息が止まったら翌日お看取りにいきます、日中なら日曜祝日でもいきますが、夜には行かれませんよとお話ししてあります。高齢患者の急変にどう対応するかは医者によって違うでしょうから、かかりつけの先生とよく相談しておく方が良いです。

    ウチのばあちゃんはかかりつけが大病院だからいざというときは大丈夫というのは間違いです。かかりつけが大病院だから急変したら救急車でそこに運ぶという事になれば、冒頭に説明したようなことになるからです。急変したから救急車呼んだけど救命はしないでくれというのは通らないのです。救急車で救急病院に運ぶというのは救命しろって事なんですから。
    こう言うことは、日頃からじっくりと考えておきましょう。

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